船舶管理から船員確保まで皆様のニーズにお答え致します

Blog/2017-04-12

Top / Blog / 2017-04-12

心にそよ風 

今日も腰が痛むと、うつむけに寝そべるおばあさんの背中に載って私は足で踏む。
一ニ三、一ニ三。
足元が定まらないから上手くいかない。
「おばあさん痛い?」と顔を覗き込む。
今度は腰を揉む、子供の事だからその力はたかが知れている。
それでもお婆さんは気持ちよさそうに言う。
「安夫が揉んでくれるのが、一番気持ちが良いよ」
私は余計に力を込める。

何故かおばあさんが痛いといえば、私まで心配になるほど、私はおばあさん子であった。
お母さんが亡くなってからは、おばあさんの懐に入って眠る事の方が多いから
私にとっては、少し歳を取った母に違いなかった。
肩や腰を揉みながらおばあさんにお願いした。
「今度、学校で授業参観が在るけど、いつも誰も来てくれないから
おばあさんが来てくれたら嬉しい。」しわだらけの顔を覗き込んで頼んでみた。

「おばあさんはな~、畑やご飯の支度が沢山あるから行ってあげられんのよ~」
私はヤッパリ駄目か。余り当てにはしてなかったけど、小学校2年生になるのに
私の場合は一度も姿が無い参観日には、子供心にどことなく傷心の寂しさがあった。 
おばあさんは悲しそうな顔をして「安夫は強い子じゃけー
なんでも一人で出来る子じゃけー」と言っては目を伏せた。
そんな話をした後、私はその事は既に諦めて忘れていた。

その当日、着飾った父兄達が沢山後ろに並び、授業参観の授業が始まった。
後ろの母や父を意識した生徒達は、落ち着かないまでも、いつもに増して活発に手を挙げ
先生に当てられるように、ハイハイの声で賑やかであった。
私は分かっている問題でも、手も挙げることはしなかった。
ただうつむいているだけで、答えたって恥ずかしいだけだと思っていた。
だから後ろにふり向く必要も無かった。

ところが、隣に座っている児が私の肘をつついて、ひそひそと話した。
「後ろにお前の家のおばあさんが来ているぞ!」
私はまるで電気に触れたように後ろを向いた。
入口の後ろに遠慮がちにたたずむおばあさんが、野良着のままで居るではないか。
「ウワー、おばあさんは来てくれたんだ!」私はそれだけで嬉しかった。私はどんどん手を挙げた。
「ハイハイ」と元気一杯に、おばあさんが恥ずかしくないように。
おばあさんが喜んでくれるように。
何度も何度も手を挙げた。

おばあさんの足で30分は歩いて峠を越える学校まで、沢山の用事を抱えながら
おばあさんは来てくれたのである。
それだけの何でもない普通のことが、我慢している子供心に嬉しかった。
一番貧乏で底辺の生活の中には、それなりの素朴な幸せがあった。
しかし、それ以来私が中学を卒業するまで、授業参加をしてもらったのは最初で最後であった。
僅か一回の参観日を今でも強力に覚えている私は
振り向けば余りにも素朴すぎる時代を通り過ぎた気がした。
心のポケットには、今でもささやかな涼風が通り過ぎていく。



a:176 t:1 y:0



コメント


認証コード(7758)

powered by Quick Homepage Maker 5.1
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional