船舶管理から船員確保まで皆様のニーズにお答え致します

Blog/2020-11-10

Top / Blog / 2020-11-10

人生に無駄は無し

日本海には優勢な大陸高気圧が張り出して、低圧部を次第に太平洋側に押し出せば
季節は次第に冬型になりはじめる。 
10月一杯まで穏やかな航海が続けられた日本海沿岸も北西の季節風が
白い牙を剥き始めれば、小型船には情け容赦しない三角浪の逆立つ難所へと変貌する。

私はその昔、四国の坂出港から日本海の直江津港間を
通算5年間、定期航路で往復した経験がある。
往きは満船貨物で安定感があっても、復路は全くの空船航海のために
当時の船舶の能力[G/T 999㌧D/W2000㌧]からして、かなり厳しい条件下であった。 
1ヶ月毎の生産ノルマを守るためには、いつも「安全第一」で避難ばかりを続けていれば
「材庫不足」の請求は毎日のように電話催促が続いた。

倉庫も拡充されていない手薄な日本海の岸壁設備には
品物が足りなくなれば工場が止まるなどの、大責任が課せられるのは辛い任務であった。 
従って今の様にテレビの天気予報や気象ファックスが設備されていない時代は
船長の能力と判断に航海の全てがゆだねられていた。
そのためには、毎日の午前と午後の2回、気象通報を詳しく記入しては
自分で気象配置と波浪状況を解析する事が習慣であった。
 
学んだ知恵を活かして、私は避難先では一日一回、朝一番には必ずスタンバイをして
陰になった岬の先端まで走り、実際の海洋の荒れ状況を自分の目と
自分の船で確認するようにしていた。 
そこには予報だけに頼っていては冬の日本海に船脚は一向に伸びないばかりか
すでに次の荒天が押し寄せている例が多かった。 
そうした努力は出港してみれば、予報よりはるかに海は穏やかな笑顔を
見せることも無縁ではなかった。

実は私のその知恵は、老かいな一航士の入れ知恵であって
「船長!これっしきの時化で一日中避難して胡坐をかいていたら日本海は走れない。
 とにかく自分の目で、沖の荒れ狂う海の姿を確認するのが本当の船乗りだ!」
言々と、スパルタ教育された産物であった。 
その人曰く、船神さんは努力しない人に、凪の手を差し伸べることはない!! 
「艱難辛苦の海を乗越えろ!!一生懸命、手に汗して取り組む者にだけ
 運命は手を差し伸べる。」
と、口癖のように言う人であった。

彼は日本海の巾着船に鍛えられて漁労長となり
怒涛の海を乗越えた、その道で知る人ぞ知る人。
不漁で漁場を失った仲間と共に貨物船に乗り移った、彼との巡りあわせは
同郷の大先輩にあたり、この人との出会いは、本物の船乗りの息を吹き込まれた思いであった。

私は一人前になるまで、随分と沢山の人達に助けられてきたものであろうか。 
今、考えれば無駄な事など一つもない、それなりに意義深いことばかりであった。 
成すべきを成さずして人生を無駄にしている人は沢山いるのかもしれないが
人生には無駄なことなど何一つない。 
時化に育てられ、人の情けと共に生きてきた、まだまだ航海計器の貧弱な頃の
昔懐かしい冬の日本海航路の古い拾い話である。



a:134 t:1 y:0



コメント


認証コード(4265)

powered by Quick Homepage Maker 5.1
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional